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イデアなひととき
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男子厨房に入りまくる!(上)

 

  「男子厨房に入るべからず!」などという言葉が、世に生まれたのはいったいいつ頃のことなのだろうか。どうやら、中国の孟子が書いた語録の中にその起源があるらしいのだが詳細は定かでない。その意味するところも「家庭料理は主に女性の仕事であり、男性はいちいち口を出すべきではない。」とか、「厨房にある竈(かまど)の神は、本来女性が祭るもので男性が厨房に立つと災いが起こる。」などという説もあるが、これまた何ともはっきりしない。詰まるところ、女性の中にも自分の“城”を荒らすなと言う方もおられるし、これだけ女性の社会進出が顕著になると“炊事”も半々で分担して欲しいという女性陣もおられる。そこで、今回は発想を変えて“男子”も大いに厨房で活躍すべしというお誘いをしようと考えた。

  天下国家を論じる男性諸氏の中に、果たして今すぐ一人で“ご飯を炊ける!”方が何人おられるだろうか。電気炊飯器と米と水があれば、誰でも、いつでも美味しいご飯が勝手に炊けるなどと高を括っていると、いざ事に当って慌てることになる。力任せに米を研ぐと米粒が割れるし、研ぎ過ぎると“旨み”や“香り”も無くなる。そうかと言って、きちんと研がないと糠(ぬか)臭さが残る。最近は“無洗米”などというものも売られているが、全く研がなくて良いわけではない。米の種類によって吸水性と炊き上がりの硬さの具合が違い、自分で実際に何度も“水加減”を替えて試してみて、ようやく納得のいく“銀しゃり”に、お目に掛かれるという寸法である。

  “炊事”については、男女の役割の違いとか、興味の有無などを言っている場合ではない。実は配偶者に先立たれた時、女性はその後も元気に長生きされるが、男性の場合は極めて短命に終わると統計にある。3S(炊事・洗濯・掃除)が出来ないと生活が荒み、命に関わるという証左だが、特に一番肝心なのが“炊事”だ。つまり、男性諸君!元気で長生きしたければ、若いうちから、積極的に自ら進んで厨房に入るべきなのである!

  子供の頃、“すき焼き”は、必ず父が料理するものと決まっていた。砂糖と醤油だけの単純な味付けではないかなどと、侮ってはいけない。肉の旨みを逃がさず、しかも肉が硬くならないようにするためには、火の入れ加減やスピード感に細心の注意が必要だ。味付けするための“砂糖と醤油”もちょっと焦がして“香ばしさ”を出すとか、なかなか奥が深い。また、“焼き豆腐”や“糸こんにゃく”、青々とした“長ネギ”が醸し出す、懐かしさに溢れる“深い香り!”は絶品であった。こちらとしては、ただ“生卵”を割り入れたお椀を手に持って、鍋が目の前に現れるのを待つばかりであったが、すっかり自分の頭の中に“すき焼き”こそ男の料理の代表という“思い”が刷り込まれたのだった。

■男子厨房に入りまくる!(中)は、こちら>> 文 国影 譲

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