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イデアなひととき
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スイッチが入る瞬間の物語!

 

  帝国ホテルが生み出した有名な料理「シャリアピン・ステーキ」にその名を残す「フョードル・シャリアピン」は、旧ソ連出身のオペラ歌手だった。長い貧困と流浪の後、ついに1899年に「ボリショイ劇場」に招かれてからは、代表的なロシア・オペラの主役を次々に演じ、20世紀前半を代表する“バス歌手”となったのである。そんな彼には、実は“信じられないような逸話!”が残されている。他に比較する者も無いようなすごい実力を持った「シャリアピン」なのに、舞台に上がる前には毎回、まるで子供のように「もう歌えない!今日は舞台に上がる気力も無い!声が出ないのだ!チケットを払い戻して、観客には帰ってもらってくれ!!」と駄々を捏ねる。緊張からか冷や汗を流し、がくがく震えながら最後には“涙声!”で懇願する!そんな彼に対し、マネージャーは優しく、しかし時には叱咤激励するように「貴方は最高の歌い手なんだ! 貴方は必ずうまくやれる!ほら!観客はみんな貴方を待っているのですよ!」と言って、どうにかこうにか舞台の袖に「シャリアピン」を送り出す!そして、観客の万来の拍手に迎えられて舞台の中央に立ったその瞬間、老人のように丸まっていた「シャリアピン」の背筋は真っ直ぐに伸び、朗々と響くその歌声に、観客たちは“はっ!と息を呑む!”ほど魅了されていくのだった。

  さて今度は、演じる者たちに“勇気”と“成功の機会”を与えている人物にスイッチが入る瞬間の話をしよう!

  私が尊敬する、イギリスの敏腕ミュージカル・プロデューサー「キャメロン・マッキントッシュ」は、「キャッツ」、「レ・ミゼラブル」、「オペラ座の怪人」、など、素晴らしいミュージカルを立て続けにヒットさせている。彼は、言う!「僕には、素晴らしい舞台背景を作り上げる“美術的なセンス”も無い。また、すべての人々に愛されるような素晴らしい音楽を作曲する才能も無い。もちろん、観客の目を釘付けにする“目の覚めるような演技!”も出来ないし、俳優たちを自由自在に動かす演出家になることも全く無理だ!ただ、僕にはたった一つだけ、決して誰にも負けない才能がある!それは・・、人々に暖かく迎えられるような作品が僕の目の前を通った時、僕の“魂!”にはスイッチが入り、決してそれを見逃すことは無いということだ!」

  バッカーズと呼ばれるイギリス独特のミュージカル投資家は、
ミュージカルを期間ではなく、“1公演”単位で投資する。イギリスに於けるミュージカルとは、常に、もし数公演でクローズになってしまえば、自己破産も有り得る極限状況なのだ。そんな状況の中で、研ぎ澄まされた“魂!”にスイッチが入り、ロングラン・ミュージカルを次々に生みだしていくことに、投資家でもあり、プロデューサーでもある彼は、“美学!”を感じているのであろう。

文 国影 譲

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