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一期一会のある暮らし
日本の味、漬け物考
(上)

  私は、父が台所の片隅で、「ねじ式」の簡単な小型漬物機で漬ける“旬の白菜漬け!”が大好きだった。白菜と塩しか使っていないのに、まるで果物のような華やかな芳香と口いっぱいに広がる心地よい甘み、そして、炊き立てのご飯との抜群の相性!巧まずして、子供の頃から“最高の日本の味!”に出会っていたのだという確信がある。“漬け物”は、それ自体が持っている、乳酸菌発酵特有のまろやかな“酸味”と“甘み”、そして更に“旨味”が加わり、味はより深く複雑になり、他のものでは決して味わえない満足感を与えてくれる。   “食べ物をどうやって長期保存するか?”という命題は、われわれの祖先が日々生きていくために、とても重要なことだったに違いない。太陽の光と海水の力を借りて“干物”を作ったり、酵母や乳酸菌の力を借りて“漬け物”を作るという知恵が、氷河期や乾燥期を越えて我々人類を生き延びさせ、進化させてきたのだと思う。縄文時代の土器を調査すると、既にその頃から“野菜”や“肉”を塩と一緒に土器の中で保存していたことがわかるそうだ。特に日本では、常に獲物を求めて移動していく“狩猟型社会”ではなく、一箇所定住型の“農耕型社会”が中心となっていったから、食べ物の保存は、そのコミュニティにとって、死活問題だったはずだ。我が国で“漬け物文化!”が大きく発展していった素地は、正にそんなところにあったのかもしれない。

  奈良時代の記録文献である“木簡(もっかん、墨で木片に文字を書いたもの)” には、漬け物の材料にした“野菜”や“果物”の名前、更に“漬け物”の名前などが書き残されている。“果物”も塩漬けにして、僧侶たちがおかずとして食していたというのも興味深いが、何より、そこに書かれた“漬け物”の製法が、ほとんど変化することなく、今に受け継がれていることに驚くのである。

  さて、この後の時代、平安から鎌倉、室町にかけては、“漬け物”はますます重要な副食として一般家庭の食卓にも並ぶこととなった。と同時に、塩漬けだけではなく、味噌漬けや糟漬けといった製法の多様化も見られ、特に味噌漬けは、“香の物”という形で“茶の湯”や“香道”の席に供せられたようだ。食品保存の一手段から、日本文化の頂点まで、“漬け物”が如何にわれわれ日本人の生活にとって身近なものだったかを物語っている。

  そしていよいよ、江戸時代に入ると一般家庭に“ぬか漬け!”が登場する。米ぬかに、塩や水、調理で出た野菜くず、唐辛子、昆布などを入れて、野菜にもともと着いている乳酸菌や酵母を繁殖させ、そこに新鮮な野菜を漬けて、絶妙の“酸味”や“甘味”、そして“旨味”を楽しむ。ぬか味噌は、毎日かき混ぜなければならないのが大変ではあるが、手入れさえ良ければ“ぬか床!”は半永久的にもつものであり、現代でも「我が家の宝!」と大切にされているご家庭も多いだろう。